1月例会「ブックトーク」「翻訳のお仕事」

日時:17日(土)13301630

会場:明治学院大学白金キャンパス2号館2202教室

◇ブックトーク「宇野和美さんのお仕事」…廣畑環

例会の構成は、はじめ20分間のショート・アニマシオンと90分間のワークショップまたは講演としています。1月のショート・アニマシオンでは、廣畑環さんが宇野和美さんのたくさんの翻訳のお仕事の中から6冊を選んで紹介しました。ここではその概略を紹介します。1、ピトゥスの動物園(サバスティア・スリバス作 、あすなろ書房) 重い病気にかかった男の子の治療費を作るために、子ども達が動物園を作る・・・ユーモラスで楽しい話。2、約束の丘 (コンチャ・ロペス・ナルバエス作、行路社)1942年のスペンン。15万人を超えるユダヤ教徒が国外への追放された折、ペストから町を救ったユダヤ人と、ユダヤ人に感謝するスペイン人との間で交わされた約束。三人の少年を中心に描かれる。3、日ざかり村に戦争がくる(フアン・ファリアス作、福音館書店)スペイン内戦下の片田舎でおこったおこった悲劇。淡々とした語りの中に深い悲しみや怒りが漂う。4、雨上がりのメデジン(アルフレッド・ゴメスー=セルダ作 鈴木出版)南米のコロンビア、貧困と暴力のスラム街。盗みがきっかけで図書館の司書に出会って本を手渡され、本の面白さ・読む楽しさを初めて知った少年が描かれる。5、ベラスケスの十字(エリアセル・カンシーノ、徳間書店)『宮廷の侍女たち』に描かれているベラスケスの胸の十字はベラスケスの死後に描き入れられたといわれる。この十字を描き入れたのはだれか。小人症であるためにスペインの宮廷で道化師になった少年を中心に描いたミステリー仕立ての物語。6、ペドロの作文 (アントニオ・スカルメタ文、 アルフォンソ・ルアーノ絵、アリス館)1970年代のチリ。 軍事独裁政権の統治下にある市民の息苦しさを少年の目線で伝えた絵本。(記録:廣畑)

 1月例会は、外部の講師を招いて学習する特別例会としてきました。今年度は翻訳家の宇野和美さんに「翻訳の仕事の苦労と喜び」をお話いただきました。翻訳の楽しみ…宇野和美さん

1.     子どもの本の翻訳者になる条件

翻訳者になる条件の第一は本が好きであることだと思う。好きでなければできない仕事だ。よく、翻訳にはまず日本語能力が必要であるという見解があるが、やはり外国語能力が必要である。出版社に勤めていたが、出産を契機に退職した。子育ての10年間に翻訳できるようになりたいと思ってはいたが、子どもは限りなく親を求めてくるものであり、子育てしながらの仕事には限界があると思うようになった。1999年委思い切って3人の子どもを連れて、スペイン・バルセロナに2年半の留学をした。そこで、スペイン語の力をつけ、同じ文章を読んでも、色や匂いまで感じられると思えるようになった。

また、子どもの本について知らなければいけないと考えその領域の文献も読み勉強した。読者として読むのと、送り手として読むのとでは違うものがある。原書を読む、日本の本を読む、子どものことを知る、翻訳の基本の勉強、読書会で交流し合うこと…勉強することは限りなくある。翻訳者は概して勤勉であると思う。私は辞書を引くことが好きだし、独りでいることが苦にならない。本も買わなくてはならない。買う、読む、訳す…を常にやっている人だと言える。

2.     翻訳から出版まで

(ここで宇野さんは、「本」を中心にして、本と作者、本と翻訳者、本と編集者、本と読者とを4つの円で囲んだプロペラのような図を描いて話された)

 まず、本とその作者がいる。それを翻訳者が見出し、編集者(出版社)に紹介し、売り込む。編集者が乗ってくれれば出版社に企画を出して出版の運びとなる。(私は翻訳する)。出版されて、本は読者の手元に届けられる。その時に、翻訳書の独自の役割が大事な意味を持つ。日本の作家には書けない内容。時代や場所が違うことによって新しい世界に窓が開かれる本。日本のdクシャに理解され、共感される本であることが求められる。

3.     翻訳の仕事を通して

絵本には絵本の文法がある。一つの言葉でリズムを持って、分かり八うs区画努力をしている。何度も編集者と声に出して読み、絵と文の重なりを省くようにしたりしている。

 「多文化理解」が今日のテーマになっているが、本来、他者を理解することはできない。しかし、理解しようとする、わからないけれどもっと知りたいと思うことはできる。日本では想像もつかないようなことにも触れ、共感し、応援したくなるような読書体験をしてほしい。これからの、翻訳の仕事を続けていきたいと、結ばれた。(記録:岩辺) 

――(感想より)

●翻訳をすることの大変さややりがいについて学びました。配布資料にあった文章になるほどと思う部分がありました。

 いわく、「読者にとって〈わからないこと〉も大切にしたいと思い始めている。〈既存のものさちにあてはまらないからといって、はみだした部分を切り落とすようなことはするな〉」

 子どもの頃に読んだ懐かしい絵本たちは、翻訳本に限らず、なんとなく理解できない部分もあり、その部分を含めてその絵本を愛していたなと思い返していました。久しぶりに絵本を読んでみようと思います。(Y)

●ブックトークで紹介された本はどれも読みたくなりました。

 

宇野さんが3人お子さんがいらっしゃる中、翻訳家を目指そうとした過程や、出版社への売り込みのお話も興味深かったです。日本子どもたちが自分が共感しやすいものに流れる傾向がある中、異文化を知る楽しみ、知るきっかけとなるよう、外国文学にぜひ触れてほしいと思います。(H)