9月7日、明治学院大学白金キャンパスの教室で特別例会を開きました。
今回は翻訳家の中井はるのさん、装丁家の桂川潤さん、光陽メディア印刷の池島健さん、同じく光陽メディア印刷の足立雄一郎さん、かもがわ出版の三輪ほう子さんを招いての特別例会でした。「つくり手が語る翻訳絵本」というテーマで、その奇跡的な実話で話題となった『難民になったねこクンクーシュ』(かもがわ出版)と、出版されたばかりの『PEACE AND ME わたしたちの平和』(かもがわ出版)ができるまでの講演でした。まず、笠井が「難民」についてのミニ・アニマシオンを行いました。中学校の公民の教科書、資料集に載っている難民のことについて、クイズ形式で進めました。日本への難民の申請数は10700人に対して、認定数は27人、認定の割合は0.3%と極端に低い。が、UNHCR(国連難民高等弁務官事務所)への拠出額は、164百万ドルと多い。日本政府の難民支援の姿勢がうかがわれる。というミニ・アニマシオンでした。
メインの講演は、中井さん、桂川さん、三輪さん、池島さん、足立さんの順番で語ってもらいました。
〇『難民になったねこクンクーシュ』ができるまで ー翻訳者中井はるののお話ー
猫が大好き。家でも猫を飼っているという中井さん、クンクーシュの写真を見て、「かわいい!」と思った。2年前TV番組の翻訳を担当して「クンクーシュ」に出合った。米国の出版社が発売した絵本の翻訳をしたいと願って、海外著作物の版権代理店からかもがわ出版が出版を検討していることを知らされこの絵本の出版が実現した。
事実がわからないところは、クンクーシュのフェースブックページから問い合わせ、動物保護団体のボランティア、エイミーさんやアシュレイさんと連絡をとって確かめながら翻訳した。ボランティアの活動は、クンクーシュのぬいぐるみを製造・販売する仕事を通して今も難民の人たちに生きる希望を広げている。
〇日本語版の装丁について ー桂川潤さんのお話ー
装丁とは、カバー、表紙、見返し、扉、帯のデザイン、また製本材料の選択までを含めた、本づくりをさす。
外国の絵本の原画はフィルムで送られてくるが、フィルムの種類によっても、色調が変わるため、画像の色を決めることに神経を使う。用紙の紙質によってインクの吸い方が違うことも考慮し、明るめ暗めなど調整し微妙な校正を重ねる。また、本のカバーや帯などは、原書には無いので、装丁家がデザインする。日本ではバーコードを入れなければならないので『PEACE AND ME わたしの平和』の場合は、裏表紙の少女がめざす星の絵が隠れてしまわないようにバーコードを左上に配した。
〇出版社からー三輪ほう子さんのお話ー
国連難民高等弁務官事務所( UNHCR)に『難民になったねこクンクーシュ』の帯を書いてもらった。「人の支援はしているが、ペットの支援まで出来ない」という声もあったが、緒方貞子さんが、「ペットも家族の一員」として支援した例もあり、UNHCR守屋由紀さんが、本部の広報に何度もかけあってくれて実現した。
〇印刷・製本について ー光陽メディア 池島健さん 足立雄一郎さんのお話ー
色の修正が難しい。発注元から送られるデータは、パソコンや、テレビによって色が違う。モニターの色は、三原色から作るが、印刷は始めに黒、次に青、赤、黄と四原色を重ね刷りしてつくる。一面に4ページ分を刷るため、一か所で色を修正すると、他のページにも影響してしまう難しさがある。次に文字数を絵に入るようにする。識字障害の人にも読みやすいUD書体を用いた。文字数も多く入れられる。性能の高い印刷機はインキの値段が高いなどいろいろ複雑な事情が絡む中で苦労して印刷、製本するが、技術よりコミュニケーションが大切ということだ。
【参加者の感想】
●一冊の本が何度もの偶然と何人もの人の熱意によってできることがわかりました。日本の印刷技術は世界でトップレベルとか言われていますが、それもよくわかりました。一冊一冊の本を手に取って、丁寧にいとおしく扱いたいと思いました。今日はいつもとちがう切り口でとてもよかったです。
●ものすごく興味深いお話でした。絵本を一冊つくるのに訳者がすごく調査するのは当然だとは思いつつ、ものすごい労力だなと思わされました。
UNHCRへの連絡って大変なことですね。なかなか普段は聞くことができない印刷会社の方のお話も聞くことができて面白かったです。
●初めての参加でしたが最後まであっという間の楽しい時間でした。たくさんの本について知ることができ、また今日は特別例会ということで普段ではなかなか聞くことができないお話を伺うことができとてもよかったです。一冊の本をつくるのがこんなにも複雑だなとは思いませんでした。帰ってじっくり読み込んでアニマシオンしたいと思います。
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