『親方と神様』伊集院静・作、イラスト・木内達朗
あすなろ書房 2020年2月 1,200円
外出自粛の下では、人との生きた会話もすくなくなる。心が自粛しないよう、風通しをよくしていようと思う。その一つが、読書だ。児童文学はことにこういう時に、心の風通しをよくしてくれる。
『親方と神様』は今ちょっと評判の本だ。近くの書店では児童書のコーナーに並んでいた。昭和23年8月から12月、12才の少年由川浩太は幼いときの台風被害で父と姉を失って、母との二人暮らしだ。その夏、彼は鍛冶屋の能島六郎の仕事場をのぞき、毎日やってきてはじっと見ていくようになる。一人親方の鍛治職人としてやってきた六郎はしだいに浩太の来るのを喜ぶ気持ちが湧いていく。そこへ、浩太の母と担任教師がやってきて、義務制となった中学校へ進学するよう説得してくれと頼む。浩太は小学校を出たら六郎の弟子となって鍛冶屋になりたいと願っているのだった。浩太を説得するために、六郎がとったのは、自分が鍛冶屋になろうと決めて親方についた時に、親方が示してくれたことだった。そこが深い感動となる。
ここから先を書くと、全部話してしまうことになるのでやめておきましょう(笑)
この不安の「巣ごもり」の中で、“何となく不安”症候群が現れるが、その動揺をすっとしずめてくれる。この著者の本は、『機関車先生』と『ノボさん 正岡子規と夏目漱石』くらいしか読んでいないのだけど、いつも深い、しかしさわやかな読後感に包まれる。これはすぐ読める短篇です。イラストがとてもいい。凛とした世界を醸し出している。(岩辺泰吏)
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