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今こそ読もう、この1冊!!26

「かけはし―慈しみの人・浅川巧」

 中川なをみ 作 新日本出版社

 2020年9月 税別1600円)

 この本は、山梨県甲村(現在北斗市)に生まれた浅川巧の生涯を描いた物語である。作者の中川さんの作品といえば、私にとっては「ユキとヨンホー白磁に魅せられてー」が特に印象的であった。作品から朝鮮の焼き物「白磁」の魅力が溢れてくるように思え、読後は、朝鮮の焼き物を鑑賞する機会が増えたほどだ。主人公、浅川巧は、その白磁の魅力を柳宗悦に紹介した人として知られる。また、庶民の生活用品である膳などの木工品にも造詣が深かったという。祖父伝右衛門に育てられた巧は、23歳の時、兄のの誘いを受け、朝鮮に渡って林業試験所に職を得る。朝鮮の荒れた山々を緑にしたいという強い思いを抱いての事であった。しかし、林業試験所での緑化事業以外に、巧の心を占めたのは、朝鮮の民具の美しさと、日本による支配に対する疑問であった。朝鮮の服を着て、朝鮮の人の住む地域に住み、朝鮮の生活用品を集める巧には、反日の思いを描く現地の人々も心を開くようだった。

 1916年、民芸運動の提唱者、柳宗悦は朝鮮の民具の美しさを知り朝鮮を訪れる。宗悦は数日間、巧の家に滞在し、語り合ったとのことである。この出会いは、「朝鮮民族美術館」の設立につながるのだ。その後、巧は朝鮮の山々の緑化という仕事の面でも大きな成果を上げ、曲折を経て朝鮮

民族美術館も開館を迎える。さらにこれまでの研究成果を著すのだが、病を得て、あっという間に亡くなってしまう。その葬儀には、近所の人が列をなしたとのことであった。(かなり省略してあります。)

中川さんの作品らしく、現地の少年ソンジンとその妹ヘジョの活躍ぶりが好もしい。また、朝鮮の人々が、己の文化に自信を持てないことに悩む巧や、妻みつよを失くした際の巧の思いなど、共感し心を打たれる場面が随所にあふれていた。読後は静かな感動に包まれたのだが、この感動は何だろうと不思議に感じる気持ちもある。日本と朝鮮、不幸な関係にあった二つの国を、誠心誠意、より良い関係にしようと試みた巧の、地に足を付け、静かに歩む姿。そしてその一つ一つの試みが、今も語り伝えられ、後世に大きな影響を与えている事。さらに今もまた、二つの国の人々同士がより良い関係を持つことを希求する庶民の願いが、(この作品もその一つ)連綿とつながっている事が、この感動の最大の理由ではないかと思ったのだが。今は、あまり分析せず、この物語の余韻に浸っていたい。

(千田てるみ)