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今こそ読もう、この1冊!!29

『せきれい丸』

 戦争は、1945年8月15日の終戦宣言をもって終わったわけではない。これは、1945年12月9日、淡路島と明石港を結ぶ連絡船「せきれい丸」に起きた悲劇の話である。100

名定員の船に349名が押し寄せて、転覆し、生存者は45名という事故。戦後の混乱はこういう事故を「小さな紙面」でじるだけだった。「ありふれたこと」だったのだ。

 淡路島に住む田島征彦さんときどうちよしみさんの協力でできた絵本。生存者の一人である大星貴資(たかし)さんの話を聞き、生きのびた少年ひろしを設定して、その少年が背負った命の思いを描いている。大星さんは淡路島で中学校の教師を勤めてきた人だという。「亡くした友の代わりに助けられた、という重みを背負った少年の心を描くため、漁師さんの放す顔を見ながら想いを深めた。漁港の船を見て歩き、少年の心の再生を考えた」と、たじまさんは挟み込みのリーフレットに書いている。

 海に沈みながら、戦死した父の「ひろし、生きるんや」という声を聴いて海面に浮かび上がる。そして、息子りゅうたを探す漁師に掬い上げられるが、りゅうたは見つからなかった。その分をも生きていく。戦争、生命というテーマは根気強く語りつがれていかなければならない。きどうちさんの染色による絵が風土の色となり、深みを与えている。

 たじまゆきひこ・きどうちよしみ作『せきれい丸』くもん出版2020.11、1,600円  (岩辺泰吏)