『子どもの本から世界をみる』
著者:石井邦子、片岡洋子、川上蓉子、鈴木佐喜子、田代康子、三輪ほう子、田中孝彦 かもがわ出版 2020年9月30日 2,000円
本書は、教育界のオピニオン月刊誌『教育』の1990年11月号から2018年3月号までの「子どもの本」に紹介された書評のうちの84の文章と本書出版のために書かれた4つの文章が入ったものだ。
まず、タイトルがいい。子どもの本は、子ども向けとはいえ、大人が読んでも感動し、考えさせられることが多い。読書は自分以外の世界に入っていくことだが、それを子どもの本から世界をみるという。このタイトルに誘われる。
本書の紹介文は新聞などの書評と違い、文章が比較的長く、著者の思い、考えがよく現れていてそこから学ぶことは多い。例えば、『詩ってなんだろう』(谷川俊太郎著 ちくま文庫)を紹介している三輪さんは、文章の中で本の紹介だけでなく、教育現場での詩の授業風景や教育学者の論を紹介しながら谷川さんの書を再評価している。これは読み手に新たな世界を拓いてくれる。まさに子どもの本から世界をみるだ。また、『あん』(ドリアン助川著 ポプラ文庫)を紹介している片岡さんは、ハンセン病の歴史や療養所差別の状況などをわかりやすく説明している。ハンセン病についての入門書やテレビ番組も紹介している。『あん』を読んでいなくても、この文章を読むことでハンセン病について知ることができ、読み手にハンセン病の世界を教えてくれる。
本書で面白いと思ったのは、紹介文だけでなく、<キーワード>という項目があり、3、4個の言葉でその本を紹介しているところだ。例えば、今年ベストセラーになった『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(プレディみかこ著 新潮社)は、「英国、『多様性格差』社会、中学校生活」の3つがキーワードとして紹介されている。「確かに!」と頷ける。教室で子どもたちに本を紹介してもらうとき、これは手法として使えるなあと思った。本の紹介というだけでなく、著者7名の思い、考えがこもった本で学ぶことが多くあった。ぜひ手にとって読んで欲しい。(笠井英彦)
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