『天を灼く』3部作
『バッテリー』のあさのあつこさんの時代小説三部作。これは児童文学のジャンルだろうか、一般の時代小説なのだろうか。それを「青春時代小説」と呼ぶようだ。少年を主人公に社会の不合理を一途に追っていく展開は児童文学のものといえるが、書店では一般書に並んでいた。藤沢周平などの時代小説の描写、語りとはだいぶ異なる。歯切れ良い文章。テンポが速いので、引き込まれてぐいぐいと読んだ。センテンスが短いからだろうか。 伊吹藤士郎の父斗十郎は藩主の密命を受けて家老と豪商との結託による藩財政の私物化を調査しているうちに、逆に彼等の掌中に陥り、切腹となる。父と組んでいた出雲屋も取り潰しとなる。牢屋敷に入れられた父は切腹の解釈を藤士郎に命じる。そこに、柘植左京という若者が勤めていた。藤士郎は父の隠した書類を江戸の藩主に届けようと策するが、そこに家老派の刺客が迫る。刺客の一人は幼馴染の親友であった。彼を討ち果たして江戸に向かう。
『地に滾る』は江戸に出て書類の行方と藩主の動きを探ろうとする藤士郎と左京の戦い。長屋に住む藤士郎と、深川芸者に拾われて一緒に住む左京。そ彼らをめぐる下町の人間、薪炭問屋などの人物像もおもしろい。 『人を乞う』は江戸から藩に戻った藤士郎と左京、その親友慶吾を描く。姉の美鶴、母の茂登子、美鶴の夫・宗太郎、さらに村の人々が生き生きと描かれる。それ以上は読んで
ください。 はじめは少し敬遠する漢字の題名三部作だったが、読み始めると先へ先へと連れられて
行った。真実を求めながら、生き抜くこと。「己の生き方を(己で)決めたのだ。」最後まで、納得のいくように、自分で選んで生きていくこと……がテーマかな。『天を灼く』『地に滾る』『人を乞う』…天地人だ。 あさのあつこ祥伝社文庫令和2年8~10月 (岩辺泰吏)
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