『女性受刑者とわが子をつなぐ絵本の読みあい』(村中李衣編著・中島学著・かも
がわ出版・かもがわ出版 2021年6月30日)
本書は、日本で最初に作られた官民協働刑務所である美祢社会復帰促進センターで
取り組まれてきた女性受刑者のための矯正プログラムでの実践を、編著の村中李衣さんがまとめた本だ。
村中さんは児童文学作家で幼児から高齢者までさまざまな人と絵本の「読みあい」(「読み聞かせ」ではなく「読みあい」)を行っている実践家でもある。その村中さんが美祢社会復帰促進センターで女性受刑者と取り組んだのが「絆プログラム」と呼ばれる絵本の「読みあい」だ。この「絆プログラム」は次のような流れとなる。
①女性受刑者が家族や大切な人(主に自分の子どもや孫)を想定して絵本を選ぶ。②6
名のグループをつくり、グループの中で絵本を何度も読み合う。批評しかい何度も練習する。③ひとりひとり録音する。④絵本を読んであげる相手に録音したCDと絵本を送り届ける。録音が終わった参加者ひとりひとりひとりに村中さんは手紙を渡しているが、この手紙は、受刑者への村中さんの愛情がこもった素敵な文章だ。
このようなプログラムで、参加者は絵本の理解が深まり、また絵本をもとに自分が歩んできた人生やそれまでの生活を見つめ直すことになる。大切な子どもとの関係を再確認することにもなる。ある参加者は取り組み後次のような感想を書いている。
「今までさびしい思い、悲しい思いをさせてきた家族に自分の気持ちを伝えるつもりで絵本を読んできましたが、今は離れているけど、いつも子どものことを思っているし、今まで自分勝手をしてきた私を子どもは待ってくれているので、早く帰れるように努力するので、もう少し待ってほしいです。そして、これからの私を見ていてほしいです。今までつらい思いをさせてごめんなさい。必ず更生します。」これ以外にも感動的な実話が紹介されている。
私は、このプログラムは刑務所だけでなく、教育の場でも使えるのではないかと読み進めたら、すでに単身赴任の親と子ども、コロナ禍で会えなくなった祖父母と孫、長期入院中の子どもの家庭などで活用されているという。
さて、本書には長く刑務所で受刑者の矯正に取り組んできた美祢社会復帰促進センター元センター長の中島学さんが刑務所について書いた章がある。ここでは刑務所とは何かの説明があり、とても納得がいく。刑務所というと日本では「悪いことをした人を収容し反省させるところ」という認識がある。しかし、これは世界的な刑罰執行の実態からみると主流とは言えないという。確かに、私は昨年の授業でスウェーデンの刑務所の映像を子どもたちと見たが、そのあまりの自由で楽しそうな生活は日本の刑務所とは別世界だった。そこからするとこの美祢社会復帰促進センターでの取り組みは日本でも画期的なことだ。
以上、本書の概要を述べたが、本書から学ぶことは多かった。子どもへの愛の表現は刑務所からでもできること。罪を償い社会復帰するには何が必要か。仲間とともに絵本を読みあうことの計り知れない力。刑務所のあり方等々。 多くの方に読んで欲しい良書だ。(笠井英彦)
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ゆうた君 (水曜日, 14 7月 2021 15:19)
私も深く感動いたしました。なによりもこのような努力がなされていることを知ることそのものが励ましになりました。「絵本の力」を語るすべての人が読んでほしい。