『この本をかくして』
~人にも、町にも、民族にも、物語が必要だ~
友人のすすめで借りてみた。感動!
ぼく・ピーターの町は戦禍に包まれた。図書館に爆弾が落ち、町は崩壊した。ピーターの父は、図書館から赤い表紙の本を借りて、繰り返し読んでいた。それを布で包んで鉄の箱に入れ、ピーターに渡した。「ぼくらにつながる、むかしの人たちの話がここにかいてある。おばあさんのおばあさんのこと、おじいさんのおじいさんのまえのことまでわかるんだ。ぼくらがどこからきたか、それは金や銀より、もちろん宝石よりもだいじだ」と。
町中の人が出ていかなければならなかった。父とピーターも。その父は疲れ果て、箱を托して死んでいった。ピーターは自分の荷物よりも大事にそれを持って逃れた。途中の村はずれで、大きなシナノキの根元にそれを埋めた。はるかな時がたって、ピーターは新しい国で青年になり、戦争が終わるのを待った。
やっと戦争がおわって、ピーターは再び海を渡り、あの村の大きなシナノキをさがしあて、その根元を掘り返し、鉄の箱から本を取り出した。そして、それを再建された図書館にもどした。
「図書館にあれば、きっとだれかがみつけてよむだろう。なんども くりかえし」
本とはなにか、人にとって本はなぜ必要かを深く語っている。あるいは「物語」と言ってもいいだろう。けっして古い話ではない。今日もくりかえされている物語だ。マーガレット・ワイルド文、フレヤ・ブラックウッド絵、アーサー・ビナード訳 『この本をかくして』(岩崎書店2017.6)(岩辺泰吏)
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