「あと少し、もう少し」
(瀬尾まいこ著 新潮社 2012年発行)
中学生駅伝は6区間で6人、一人3キロずつ走ります。全校生徒 150人という小さな中学
校で、それでも男子駅伝チームが毎年県大会に出場してきたのはベテラン顧問がいたから
。ところが今年は顧問が他校へ異動し、代わりに顧問になったのは全くの素人、しかも頼りない美術の若い女性教師でした。しかも、今年陸上部で長距離を走れるのは3人だけ、残る3人は陸上部以外の生徒に頼まなければならない。部長の桝井君が苦労して集めてきたのは、不良の大田君、足は速いが性格に一癖ある渡部君、どんなことでも頼まれたら断らない気楽なお調子者のジローの3人です。頼りない顧問に、寄せ集めのチーム、おまけに桝井君は最近調子が悪くタイムが落ちている。
プロローグの後は「1区」から「6区」、襷を繋ぐ順番に、それぞれの区間の走者が主人公になって第一人称で語る構成です。一人ひとり順番にクローズアップされ、チーム結成前後から大会までの紆余曲折を、過去と現在をつなぎながら語っていきます。襷を受け取る相手と渡す相手、それぞれへの想いがきちんと描かれていて、読み進めるにつれて選手達の意外な一面が見えてきます。6人とも個性的でドラマがあります。 汗で濡れた襷が繋がり、人の想いも繋がって、それぞれの思いが6区間全部に繋がっていく。初めは寄せ集めのチームだったのに本番にはちゃんとしたチームになっている。頼
りなさそうな顧問もいつの間にか陸上部に馴染んでいる。高校生の陸上を描いた佐藤多佳子の『一瞬の風になれ』、大学生の駅伝を描いた三浦しをんの『風が強く吹いている』と並ぶ青春スポーツ小説です。(廣畑)
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