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今こそ読もう、この1冊!!72

NHK『100分de名著 金子みすゞ詩集』

 2022年1月のテキスト。講師は、松本侑子さん。作家・翻訳家。アニマシオンクラブ「銀読書会」では、松本さん完訳『赤毛のアン』(文春文庫)をテキストとして読んだことがあるが、訳文の語りに引き込まれた。『みすゞと雅輔(がすけ)』もテキストにした。これも充実したドキュメントだった。

 金子みすゞは、1984年(昭和59年)3月の『金子みすゞ全集』(JULA出版)によって世に出たと言っていい。矢崎節夫氏のまさに「発掘」である。その本を弟である上村雅輔(うえむらがすけ、ペンネームかみむら)は西荻窪の劇団若草で受け取ったとある。みすゞが他界してから54年たって、念願であった本格的な詩集が出たのだ。 矢崎氏が丹念に取材調査し、1993年『童謡詩人金子みすゞの生涯』(同上)を出して、注目されるようになった。そして、国語教科書に採用され広く愛唱されるようになる。故郷山口県の仙崎には「金子みすゞ記念館」が開かれる。

 金子みすゞ自身は、当時の日本の道徳的な基本の中で生きようとし、挫折し、命を絶った。しかし、作品の中では、自由を希求し、希望をうたいつづけたこと、その背後に大正デモクラシーと童謡運動があったことを松本さんは強調している。「文学者、音楽家、美術家、編集者が力をあわせ、智恵をしぼり、熱意をこめて、子どもたちの自由な心、日本人の原風景を、懐かしい言葉と旋律(メロディー)、叙情画で表した童謡は、海外にも類をみない芸術運動であり、世界に誇る日本の文化遺産です」

と、書いている。その中に、しっかりとみすゞは自分を置いていたのであると。 情緒的に、あるいは道徳的な読解に流れがちなみすゞ作品を、広い視野で読み直すことを提起している本である。1月の放送開始が楽しみだ。21.12.29記(岩辺泰吏)