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今こそ読もう、この1冊!!74

『教えないスキル ピジャレアルに学ぶ7つの人材育成術』

佐伯夕利子著 小学館新書 2021年2月

 静岡市で子どもたちにサッカーを教えているサッカークラブの友人が勧めてくれた本。本書はサッカーの指導者向けの本ではあるが、教育書として、また子育ての本としても十二分に味わえる優れた本だ。 著者の佐伯夕利子氏は、イランのテヘラン生まれ。小学校2年生でサッカーと出会い、女性だからという差別を受けながらも自分でサッカーを続け、2003年にスペインの男子リーグ3部で女性初の監督に就任。その後スペインリーグ1部の有力チームの強

化執行部や育成部でスペイン代表を育てる重要なポストを担ったというサッカーの指導者として華々しい実績も持つ人だ。でもその実績を持つ佐伯氏が、スペイン1部のピジャレアルのコーチに就任すると指導者として悩み、考え、それまでの指導を見直していく。それはピジャレアルが選手育成の指導改革に取り組んだからだ。それが本書を形作っている。

 ピジャレアルは3歳児のクラスからU23までの育成チームがあり、その中には女子や障がい者のチームもあり、それぞれライセンスを持った専門のコーチがついている。コーチの数は120名。そのコーチが心理学の専門スタッフの助言をもとに、指導法を分析し、何度も話し合いを通して学んでいったのだ。

 本書にはこれは名言だと思われる文章がかなりある。例えば「スポーツの指導現場にありがちな『おまえ全然無理』とか『あいつは使えない』といった発想。それを生んでいるのは、間違いなく指導する人の思考の歪みです。」「教え込むと脳は休止する」「白と黒では完全に区別できないこともある・・・・人にはグレーがあって当然なのだと思えるようになりました」「指導者は、選手の学びの機会を創出するファシリテーターに過ぎない」「選手こそ活動の主体」

「日本(のスポーツ界)には、一生懸命頑張る文化はあるけれど、選手が自ら考えて行動する文化がなさすぎる」このスポーツ、選手を子どもに変えれば、日本の子育て、教育に当てはまる。その意味で、本書は優れた教育書、子育ての本だと言える。本書の最後の文がとてもいい。「鳥肌が立つくらいサッカーが好き。だからこそ、その本質を追求したい私にとって・・・」

 そう私たち教育や子育て、読書に関わる者は「鳥肌が立つくらい本が好き、学ぶのが好き」と言ってもらえるような子どもたちを育てたい。私たちも本好き、学び好きでありたい。まさにアニマシオン!!

(笠井英彦)