今こそ読もう、この1冊!!83

『ボクサー』

ハサン・ムーサヴィー作、愛甲恵子・訳

トップスタジオHR 2011.11 杉並図書館

イランの絵本は、とてもめずらしい。迫力がある。主人公はボクサー。打って打って打ちまくる……。ただそれだけ。子どもの時から父さんが残したグローブをはめ、あらゆるものを打ってきた。草原を、木を。岩を打ち砕き、海では大波をおこした。町の人気者になった。

しかし、年齢が重なると、孤独になった。「どうして父さんはボクシングを教えてくれたんだろう」と考えるようになった。その回答はグローブに刺繍されていた2つのハートだった。母さんの手のぬくもり。父さんは「みんなのえがおのために打ち続けたんだ」。そうわかると、彼は再び打ちはじめた。山に穴をあけ道を通すために。こぶしで土を耕した、草木を育てる人のために。そして、印象的なラストシーンを迎える。それは、子どもだ。あ、そこまでにしておこう。打って打って打ちまくるボクサーの絵がいい。文もいい。カバーの見返しに、イラン出身の俳優サヘル・ローズが書いている。「5,000年の歴史を持つイラン。……言葉、詩の国イランだからこそ、子どもたちは幼少期から美しい言葉に触れる機会も多いのです。イランの絵本には、文学、道徳、哲学の香りがあると私は感じます……」この本を通じて、あらためてイランへの関心と共感がはぐくまれるといいと思う。(岩辺泰吏)