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今こそ読もう、この一冊!!105

「私は、私の世界を変えられるかな」

 ブレイディみかこ『両手にトカレフ』

 ポプラ社22.6 1500円

 『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』の著者:ブレイディみかこさんの新

しい本は、フィクションという形をとって、今を生きる少女の物語を描く。14歳のミアは

、貧困地区の共同住宅に暮らしている。母はドラッグやアルコール依存症。弟チャーリー

の面倒をみているし、母親もほとんどを家にこもっている。ヤングケアラーだ。本の世界だけが彼女の救いだ。

 ホームレスっぽいおじさんから借りた青い表紙の本に今は、浸っている。戦前の女性活

動家金子文子の自伝だ。この二人の少女の物語が並行に進んで行く。カバーの制服(つん

つるてんの短い)の少女がミア。着物姿が金子文子だ。そして裏表紙側が音楽活動に打ち

こむ同級生の男子(ミドルクラスの家庭の)ウィルだ。

 ウィルはミアのラップの詩から彼女に関心を持ち、困難を抱える同級生の生活に思いをはせるようになっていく。

 いくつもの物語が交錯し、福祉の制度の弱点が告発されるとともに、しかし、いまある福祉とボランティアの網がミアたちに援助の手を差し伸べていく。日本にはその制度そのものがないとさえいえる。

 最も困難なところに追い込まれ、死を覚悟したときに、金子文子はこう思いとどまる。

「私は死ぬわけにはいかない。まだ知らないたくさんのことを知るまで、まだ出会っていない人々と出会うまで、生きなければならない。いま、この広い空の下には、私と同じように泣いている人たちだっているだろう。虐げられている人たちもいるだろう。私はその人たちに伝えなければならない。ここじゃない世界はいまここにあり、ここから広がっている。別の世界は存在する。」

 ミアはこの言葉にはげまされる。「ここじゃない世界に行きたいと思っていたのに、世界はまだここで続いている。でも、それは前とは違っている。たぶん世界はここから、私たちがいるこの場所から変わって、こことは違う世界になるのかもしれないね。」

「だとしたら、ここにある世界は変えられる。」

このメールを受け取ったウィルはこう返信する。

「すべてにYES」!

 今日の世界に、この時代に幻滅を抱き始めている人にすすめたい。

「私の、私たちの、世界はここにある」(岩辺泰吏)