イタリアより女性の歩みを物語る
ビアンカ・ピッツォルノ『ミシンの見る夢』
中山エツコ訳 河出書房新社2021.3
韓国の文学の奮闘が書店の一つのコーナーとなっている。韓国絵本もファンが広がって
いる。それでも、英語以外の外国語文学は多くはないように思う。これは、ヤングアダル
トのコーナーに並んでいるが、イタリアの児童文学者による「大人向けの小説」である。
「19世紀末から20世紀初頭を舞台と下この小説は、疫病のために家族を失い、祖母
に育てられた貧しい少女が、お針子として、一人の女性として成長していく姿を描いてい
る。」(「訳者あとがき」)
主人公は「私」。私は5歳、祖母は52歳…というところから語られていく。そして、
私が祖母の年齢を越えて振り返るところまでを語っている。幼い時に父母を失い、お針子
として信頼されていた祖母によって技術を学んでいく。お針子は裕福な家庭から下着から
礼服、その繕いまで仕事を得て暮らしていく。その仕事を通して貴族やお金持ちの生活を見、その仕打ちを体験する。「私」は成長と共にあらゆる差別と共に、友情をも経験していく。その中に、エステル・アルトネージ嬢がいる。彼女は父の地位と財産に支えられて「自由な」生活ぶりであるが、「私」を信頼し支援してくれる。階級・階層による差別のはっきりした、厳しい時代である。それは、住まい、服装、言葉…、生活の隅々に及んでいた。
エステルはこうアドバイスする。
「あなたはまだ若いし、恋することもあるでしょう。でも、決して男に、あなたに対する尊重を欠くような振る舞いを許してはだめよ。あなたが正しいと思うこと、必要だと思うこと、あなたの好きなことを邪魔されてはだめ。人生はあなたのもの。あなただけのもの。覚えておいて。自分自身に対する以外は、義務なんてないのよ」
題名の「ミシン」は右手で回しながら、左手で布を動かして塗っていく「手回しミシン」だ。これが重要な役割を果たしていく。
アニマシオンクラブ・シニア読書会は毎月例会を重ねているが、そのテキストの選書に苦労している。やはり外国文学では英語圏の作品が多くなる。それで、このイタリア文学を読んでみた。時代とそこを生きる女性が丁寧に描かれていて共感深く読める作品だ。(岩辺)
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