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今こそ読もう、この一冊!!173

『空と星と風の歌』

小手毬るい・作 堀川理万子・絵 童心社 

1300円(税別)

 本書は、戦争末期留学先の日本で獄死した尹東柱の詩集『空と風と星と詩』に着想を得て書かれたものです。日本では在日朝鮮人、在日韓国人に対する偏見や差別が根強く残っています。その問題を3つの短編を通して鋭く描いています。

 ジャーナリストの母の仕事場に行くことで、それまで全く知ることのなかった在日朝鮮人の生きざまを知り自らの生き方を考えるようになった主人公の話。在日韓国人と日本人の親をもつ子どもが中学校でひどいいじめを受け、アメリカに移住した後母の祖国韓国へ旅立つ話。アメリカに交換留学で行った障害をもつ子どもが、現地でお世話になった在日韓国人から大きな刺激を受ける話。

 三つの話を『空と星と風の歌』という詩集で結びつけ見事なまでに在日の問題を扱っています。歴史的事実をこんなにまで的確で希望が持てる小説にできるのかと思わせる名作です。

(笠井英彦)