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今こそ読もう、この一冊!!178

『チェコのヤポンカ』

木村有子 かもがわ出版2024.1

 木村有子さんは、お父さんの仕事の都合で、チェコスロバキアのプラハに家族(父、母、妹)と共に移り、5年生までを過ごす。そして、現地校に入るが、子どもたちやその家族はあたたかく迎え入れてくれる。そこで、たくさんの人々に囲まれて暮らすうちにチェコスロバキアが大好きになる。たくさんの絵本と出会い、その翻訳をする人になろうと考えるようになる。22歳でチェコに留学。しかし、当時のチェコスロバキアは社会主義を掲げる独裁国家だ。人々は政府の監視下にあって、報道の自由もなく、外国との交流も制限されていた。その息苦しさの中でも、日常の生活ではあたたかな支え合いに救われる。

 1989年、夫の語学留学について西ベルリンで暮らすようになると、その年は、ベルリンの壁が崩壊し、チェコスロバキアには「ビロード革命」が起きる。その様子を目の当たりにしてきた。翻訳や通訳の仕事をしながら、念願のチェコの子どもの本の翻訳に携わるようになる。その経過をエッセーとして書きつないで一冊のまとめた本だ。サブタイトル「私が子どもの本の翻訳家になるまで」。そうそう、家族より先に木村さんが一人帰ってきて、お父さんの実家で暮らしながら地元の学校に入ると、待っていたのは「チェコ菌」と呼んで仲間はずれにする子どもたちだった。チェコでは一言も話せない木村さんを子どもたちはあたたかく迎え入れ、家庭にも招いてくれたのに。社会の変化が丁寧に描かれている。知らないことばかりだな。(岩辺泰吏)