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今こそ読もう、この一冊!!181

戦争の現実

『ひとのなみだ』

内田麟太郎・文、nakaban・絵 童心社24.6

 戦争がおきても、人は戦場にかない。行くのはロボットだ。戦うのはロボットで、戦果は数字で示される。そして、勝利の旗が立つ。それをテレビで見て喜ぶ……。オリンピックのメダルの数を数えるように……。しかし、それは事実ではない。戦地では人が殺され、建物が破壊されていく。その事実を知った時、はじめて戦争の恐ろしさを知る。内田麟太郎氏はあとがき「ひとでいたい」で、こう書いている。「非戦の絵本は、これまでにも多く書かれている。戦争を体験した者は、その悲惨を語ってきたし、戦後生まれの世代は、沖縄、長崎、広島、東京大空襲を調べ、絵本に書いてきた。それらはいずれも大切な仕事だったといえるだろう。だが、私の中にはいつもくすぶっている問いがあった。それは私たちの〈いまの戦争〉だった。私たちも、いま、戦争を生きていると感じていたからだ。それは「ひとはひとを殺していいのか」「おまえは、そのときひとを殺さないといえるのか」と、自分へ問づづけている私がいるということだった。私は「殺さない」と断言できない。しかし「殺す」ともいえない。とまどいの中に私はいる。あなたもそうではないだろうか。戦争は人間を敵か味方かに単純化してしまう。

それが戦争だといっていいだろう。「敵だ! 殺せ!」「なみだをながさないロボット/なみだをながすぼくたちころすことをためらわないロボット/ためらうぼくたちすこしずつ すこしずつ ぼくたちは ひとに もどっていくへいわを ねがいながら/ひとのなみだを ながしながら」力強く語りかける内田さん。そして、黒を基調にして、戦争の悲惨を、非人間性を深く鋭く描くnakabanさん。ぐんぐんぐんぐんと問いかけてくる絵本だ。ロシアで、イスラエルで……、ひとはテレビを見て一喜一憂しているだろう。しかし、ウクライナで、ガザで……、遠隔操作のドローンが、ミサイルが、街を破壊し、人を殺している。その廃墟を、銃を持った兵士がしらみつぶしに、残された命を撃ち、踏みにじっていく。戦争は遠い所でおこっている。オリンピックを見ている間に。内田さんとnakabanさんはそこに問いかける。「ひとには なみだがある」「ひとの なみだ」が。いま、ぜひ読みたい絵本。(岩辺泰吏)