『ドリトル先生航海記』を語る
福岡伸一
新潮文庫令和元年7月
+NHK「100分de名著」
生物学者・福岡伸一氏はその道に進むにあたって、『ドリトル先生』に啓発されたところが大きいと語っている。そして、『ドリトル先生航海記』を手始めとしてそのシリーズの翻訳を手掛ける。さらに、朝日新聞への連載をまとめて、『ドリトル先生、ガラパゴスを救う』を創作した。これもとても面白かった。ガラパゴス諸島がイギリスの植民地にされようとする情報を得たドリトル先生が助手スタビンズ君と共に、それに先んじてエクアドル大統領を説得してその領土として宣言させてしまう話だ。史実に沿いながら、その隙間に物語を生みだす冒険物語。NHKでは24年10月の「100分de名著」を『ドリトル先生航海記』を福岡伸一が語るとした。そこで、縦横に語っている。さて、『ドリトル先生航海記』は、いつの読んだのか忘れてしまったけれど、今回、新潮文庫になった福岡伸一訳を借り出した。その解説に注目したのだ。福岡氏は、ドリトル先生の家のある「パドルビー」の街を探して旅をしている。舞台は1839年。ブリストル市がそのモデルであろうと確かめる。そして、『航海記』のはじめに、スタビンズ君が一人、港のある川の岸で足をぶらぶらさせている場面の場所を見つける!こういうところがすごくいい。「ドリトル」は「do little」。「ちょっと怠け者」の意味のようだ。それが、『航海記』で、漂着したクモサル島では原住民から王様に選ばれてしまう。その名前は「シンカロット」=「think a lot」=「よく考える」に変えられる。ドリトル先生の名言も忘れ難い。「心配はいらないよ。わたしにはよい考えがある」
「旅にたくさんの荷物などほんとうは必要ない。そんなものはかえって邪魔になるだけだよ。人の一生は短い。荷物なんかにわずらわされているひまなどない。いや、実際、人生に荷物など必要ないんだよ、スタビンズくん」(岩辺泰吏)
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