『ひっくり返す人類学』
奥野克巳著 ちくまプリマー新書
2024年8月10日
著者は日本を代表する人類学者で人類学の中でも文化人類学を専門としています。東南アジアなどで1年から2年、そこに暮らす人々と生活を共にして長期調査研究をするのです。
今、「人類学を学べ!」と聞くことがあります。本書を読むとわかり気がします。「かつてヨーロッパが戦争によって疲弊し精神的な危機を迎えた時期に、ヨーロッパの外部に出かけて行って、危機を乗り越えようと模索を始めたのが人類学だった」と著者は述べます。そうです。今、日本や世界が置かれた状況は「疲弊し精神的な危機を迎え」ていると言えるでしょう。そんな時、人類学が必要なのではないかと思います。では著者が研究したことから何を学べばいいのでしょうか。著者は学校や教育、貧富の格差、心の病や死、自然や人間について記しています。例えば学校と教育の章では、カナダ北西部に暮らすヘヤー・インディアンの子どもたちの学びについて書いています。ここの子どもたちはすでに知っている人(先生)とやり取りをしながら学んだり、覚えたりしないと言います。彼らにとって大事なのは自分と対象物との相互応答なのだと。マレーシアの熱帯雨林に住む狩猟民プナンも「教えてあげる」「教えももらう」という関係はないと言います。ここには学校もできましたが、子どもたちは狩猟採集の民として、森の中で生きていく上で必要となる様々な事柄を自ら身に着けるのだといいます。学校に行くことがあたり前になっている日本の常識がひっくり返ります。今、日本では小中学校で34万人もの子どもたちが「不登校」なっています。この問題を考える上で参考になる記述だと思います。他にも今日本で問題になっている格差の問題や葬儀の問題などに切り込んでいます。私たちが考える「当然」が問い直されます。私たちが今持っている「常識」が面白く覆されるのです。それは私たちに今を生き抜く力を与えてくれるのかも知れません。(笠井)
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